[FT]震災復興、日本企業に必要な野望と冒険心
(2011年8月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
津波に破壊された東北沿岸部を訪れた人は誰も、日本企業が見せた回復力に感心せずにいられないだろう。筆者は3月11日の大災害からわずか2日後、一面がれきと化した陸前高田市で、店舗の状況を確認するために、渋滞し、亀裂が入った道路を東京から走ってきたコンビニエンスストア大手ローソンの社員に出会った。
当局が通信の復旧に苦労している中でさえ、被災地一帯では家を失った従業員たちが水浸しになった生産ラインを掃除したり、泥まみれになった事務所から大事な書類を回収したりする様子が見られた。
それから数カ月間で、大変な努力と企業同士の協力によって、当初可能だと思われたよりもはるかに早くサプライチェーン(供給網)が復旧した。地震で損壊した工場の大半はフル稼働に戻っている。津波でほぼ壊滅した地域でさえ、商業の静脈と動脈を復旧させるために、企業のオーナーや経営幹部が果敢に努力している。
■被災地でプレハブ建て商店街オープンへ
海辺の南三陸町は、部分的にしかがれきが片付けられていない、コンクリートのビルの残骸が点在する平野だ。だが、地元の起業家たちは年末までにプレハブ建ての新しい商店街をオープンする準備を進めている。海産物加工工場と魚屋を津波に流されたミウラ・ヒロアキ氏は、商店街の事務局は仮設住宅に散り散りになった地域社会の新しい核を作ろうとしていると言う。「町には商店街が必要だ」と同氏。
南三陸町からさらに北に行った大船渡市の郊外にあるオイカワ・ヨシヒト氏のガソリンスタンドは、建物の鉄が歪み、まだ窓もない状態だ。だが、仮設ポンプを使って浸水を逃れた地下のタンクからガソリンをくみ上げ、残骸の中でサービスを再開している。
もっとも、オイカワ氏は震災前の状態に戻れるという幻想を抱いているわけではない。家を失った人の多くは町を離れるだろう。同氏は燃料元売りの出光の助けを得て、店を再建する覚悟だが、新しいガソリンスタンドは以前より小さくなる。「完全に元通りにするのは無理だ」と同氏は言う。
ここに大きな教訓がある。東北地方の経済は3月11日の震災の前から弱かった。沿岸部の地域社会は長年、低成長と人口減少に苦しんでおり、日本全体の先行指標となっていた。通常通りの業務を再開させる努力が成功しても、大抵、衰退が続くことにしかならない。
大船渡市に本社を置く鶏肉生産会社アマタケの甘竹秀企社長は、この点を理解している。家族経営のアマタケは大打撃を受けた。社員が10人亡くなり、陸前高田のスープ工場が破壊されたり、餌がないため鶏を100万羽殺すしかなかったりして、およそ40億円の被害を受けた。759人いた社員のうち、270人以上を解雇せざるを得なかった。
残った人々は懸命に働いている。本社と主力工場はかなり内陸に位置しているが、頭の高さを越えるところまで浸水した。だが、7月には本社や工場がピカピカに磨き上げられ、活動を再開していた。生き残った繁殖用の鶏から、新たな鶏の群れが飼育されている。
生産の再開は始まりにすぎない。甘竹社長は、今回の災害が長らく収益性の低下に苦しんできた会社の変革を加速させることを期待している。
「この地震は我々にとって、非常に大きなチャンスだ」と甘竹社長は言う。「10人の社員ともっと大勢の親族を失っていながら、これをチャンスと呼ぶのはおかしいと思われるかもしれないが、今回の震災を新しいスタイルの事業を生み出すきっかけにしたい」
これは、人口の多い地域に集中するために全国的な流通網を縮小し、安い輸入鶏肉によって圧迫されてきた利益を高めるために生産を集約することを意味している。だが、甘竹社長は中核事業をスリム化する一方で、新しい分野に成長を見いだすことを決意している。
■新規事業に賭ける被災企業の経営者
アマタケは高級スーパーのえり好みする女性客の間で高品質で健康にいい鶏肉という評判を得ており、そこから利益を上げることを期待し、鶏のコラーゲンを基にしたスキンケア製品の新シリーズを発売した。初期の市場テストは好評だ。また同社は研究者と協力し、廃棄する羽を使って、甲殻類に含まれる毒素を減らすことができる新製品の開発に取り組んでいる。
甘竹社長はさらに、より少ない鶏からより大きな価値を生み出す取り組みの一環として、鶏の骨を有効活用する方法も見つけたいと考えている。
そうした構想が成功する保証はない。医薬品市場は非常に競争が激しいし、革新的な製品は常にリスクが高い。また、羽を使った製品の試験結果はすべて津波で流されてしまったため、研究をやり直さなければならない。
しかし、緩やかな衰退に屈するまいとする甘竹社長の決意は称賛に値する。こうした野望と冒険心は、被災地から遠く離れた日本企業も見習うべきだ。回復力だけでは十分ではない。
2011年09月01日 日本経済新聞
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