復興財源の本命?「法人増税」負の側面
■震災、円高…企業の海外移転懸念
東日本大震災の復興予算を確保するための臨時増税の対象として、所得税とともに法人税が本命視され始めた。(鎌田秀男)
2011年度税制改正の目玉施策になるはずだった「法人実効税率5%引き下げ」を事実上凍結し、実質増税とする形が有力だ。しかし、超円高が続く中で実質増税となれば、国内企業の海外移転の勢いが強まりかねない。
●凍結5年程度
11年度税制改正では、〈1〉法人実効税率の5%引き下げなどで国・地方合わせて1兆5000億円余りを減税する〈2〉研究開発税制の縮小や減価償却の見直しなど優遇措置を縮小して課税ベースを拡大して7500億円の増収を図る――ことで、差し引き8000億円を減税する予定だった。
ところが、政局の混乱で税制改正関連法案はいまだ成立せず、減税は宙に浮いたままだ。
政府は、ここに来て復興財源を賄うため、法人減税断念の方向にかじを切った。有力なのは、〈1〉の5%減税を法律上いったん実施するものの、期間を限って減税を凍結する案だ。この結果、〈2〉の7500億円分が実質的な増税となる。
このほか、法人に対して納税額の1割を定率増税し、同規模の税収を確保する案も浮上している。いずれも増税期間は5年程度を想定している。
●空洞化も
産業界では、震災と円高のダブルパンチでただでさえ海外移転の動きが強まっている。
日本の40%を超える法人実効税率は、経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも最高水準だ。減税が先送りされれば、産業空洞化に拍車がかかりかねない。
経済界では、実効税率をアジア諸国並みの25%まで引き下げるべきだとの声が強い。5%減税はその第一歩に過ぎないとの位置付けだ。
経団連や日本商工会議所は、復興財源として法人課税ではなく、消費税を充てることを検討すべきだとの立場だ。基幹税の中でも経済への影響が「最も中立的」(経団連)である点などを重視している。
●新政権の試金石
政府税制調査会(会長・野田財務相)は8月中に複数の増税案をまとめ、政府の復興対策本部に示す方針だ。
ただ、菅首相の退陣を経た民主党代表選は最も早くても8月28日と見られる。代表選に出馬が見込まれる「ポスト菅」候補のうち、野田氏は復興増税に前向きだが、他はそろって慎重だ。新首相が決まる前に政府税調が議論をまとめても、実効性に疑問符が付く。
そもそも基幹税の制度設計は、今後の日本経済のかじ取りを担う新政権が責任を持って検討すべき重要課題であるとも言える。
■野田氏、税率下げ凍結示唆
野田財務相は18日、千葉市内の講演で、法人実効税率の引き下げについて「5%引き下げを実現した後に、震災復興で法人税をどう扱うか議論しないといけない」と述べ、2011年度税制改正関連法案を成立させた上で、税率引き下げを凍結して復興財源に充てる考えを示唆した。
一方、円高水準が続く外国為替市場については「日本銀行と緊密な連携をして対応していく。金融面で何か動きがあれば、当然、日本銀行の追加の金融緩和もあり得る」と、日銀の対応に期待感を示した。
2011年08月19日 読売新聞
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