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[FT]ガイジンCEOが当たり前になる時代

(2011年7月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 今年4月1日、日本の外国人CEO(最高経営責任者)の小さなクラブが少し大きくなった。物腰柔らかな英国人、マイケル・ウッドフォード氏(51歳)が、1919年創業のカメラ・医療用画像装置メーカー、オリンパスの初の外国人社長に就任したのだ。破壊的な地震と津波が日本を襲ってから3週間足らずで、「ガイジン」CEOがニュースになっていた頃だ。


■再建を請け負う外国人


 ウッドフォード氏が社長に就任する数日前、このクラブで最も有名で、最も長く在籍している日産自動車のカルロス・ゴーン氏が、記者団を引き連れ、災害で破壊された福島県いわき市のエンジン工場を訪れた。

 ブラジル生まれのゴーン氏は白い安全ヘルメットとグレーの日産の作業服を身につけ、従業員たちに直筆のサインを送り、「頑張ろう」という掛け声の音頭を取った。いわき工場は完全に復旧・再建される、ひいては日本も復興するだろう、とゴーン氏は約束した。

 再建は、ゴーン氏が1999年に日産に着任して以来、外国人経営者にとって中心的なテーマだった。フランスのルノーからやって来た「コストキラー」が日産を破綻の瀬戸際から救った物語――国内5工場を閉鎖し、2万1000人の人員を削減し、日産の部品供給会社の数を半分に減らして達成した――はよく知られている。ビジネススクールの事例研究から漫画に至るまで、あらゆる場所で語られてきた。

 以来、外国人経営者のイメージはあまり変わっていない。外国人トップは今も、会社が苦戦していて、人員の解雇や、その他の不快な大変革が必要な時に迎え入れる人物だ。日本人CEOでは、文化的、あるいは社会的な理由から、断行が不可能と判断しかねないからだ。

 2005年からソニーのCEOを務めているハワード・ストリンガー氏は、動きの遅い電機大手ソニーで正社員とパートタイム従業員を合計1万6000人削減し、ハードウエア技術者たちに圧力をかけてデジタルメディアを渋々受け入れさせた。


■国際化のけん引役に


 しかしウッドフォード氏の社長就任は、日本企業が外国人トップに求めるものの進化を示したと見ることもできる。

 コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのシニアコンサルタント、火浦俊彦氏は、諸経費を削減する能力は今も重要だが、企業は外国人経営者の力を借りて、海外子会社をよりうまく統合し、有能な外国人幹部、技術者、製品設計者を引きつけることで、さらなる国際化を図ることも期待していると指摘する。

 「経営の核心はリストラからグローバル化へとシフトし、いかにしてグローバルな人材を育てるかに変わりつつある」と同氏は言う。


■「日本人だったらなれなかった」


 ある意味で、ウッドフォード氏はガイジン像にぴったり合致している。同氏はオリンパスで米国と欧州の医療機器事業を再建、後に同社の欧州事業全体を立て直し、コストカッターとしてキャリアを築いてきた。欧州事業は今では、オリンパスの全世界の利益のほぼ半分を生み出している。

 「もし私が日本人だったら、社長にはなっていなかったでしょうね」。ウッドフォード氏は最近、英フィナンシャル・タイムズにこう語った。合理主義者で頑固な問題解決役を自認する同氏は、合意の形成やヒエラルキーの尊重を求める文化的な圧力がオープンな議論に勝ることが多い日本では、自分はきっと主流から外されていたと考えている。

 「日本人にはことわざがあるでしょう。出るくいは打たれるって」

 だが、ウッドフォード氏はぜい肉をそぐことで名声を築いた(本人によれば、「コストキラー」というゴーン氏の異名のように、彼は映画「スター・ウォーズ」に登場する「ダース・ベイダー」と呼ばれていたという)とはいえ、彼の経歴は日本のガイジン経営者の間で次第に広がる多様性を反映している。


■生え抜きやヘッドハントで社長に


 まず、ウッドフォード氏はオリンパスにとってよそ者ではない。同社が一部出資していた欧州の医療機器会社のジュニアセールスマンからスタートし、30年間オリンパスに勤めてきた。

 「私の社長就任は、外から賢い人がやって来るのとはわけが違う。私はこの会社で育った」。ウッドフォード氏は社長に正式就任して数週間後、オリンパスの工場数カ所が被害に遭った津波の2カ月後に、東京新宿区にあるオリンパス本社でこう語った。

 同氏は震災が発生した時に英国にいたが、すぐに東京に戻った。日本に駐在する多くの欧米人管理職が反対に日本から逃げ出していた時のことだ。「不安がまん延していた。オリンパス社内では多くの人が、私が戻って来ないと思っていた」とウッドフォード氏は言う。

 オリンパス勤めが長いウッドフォード氏の経歴は、ゴーン氏や、ソニーに起用される前は米国のテレビネットワークCBSに長年勤めていたストリンガー氏のような人々との違いを際立たせるだけでなく、彼をもう1人の新任ガイジンCEOである日本板硝子のクレイグ・ネイラー氏の対極に置く。

 昨年、日本板硝子に採用された元デュポン幹部のネイラー氏は、世間の記憶にある限り、日本の大手企業が初めて行った世界的なヘッドハンティングによって起用された。日本板硝子では、2006年に同社が買収した英国のガラスメーカー、ピルキントンに勤めていた英国人、スチュアート・チェンバース氏に続く2人目の外国人トップだ。


■成果出ないリスクに及び腰も


 ネイラー氏とウッドフォード氏は新境地を開いた。1人は、CEOとして日本企業にヘッドハントされた初の完全な部外者、もう1人は、生え抜きでトップまで上り詰めた初の外国人である。

 しかし、ガイジンCEOは常に成功するわけではない。カルロス・ゴーン氏のような人がいれば、今では忘れ去られたロルフ・エクロート氏のような人がいる。ダイムラーの再建専門家だったエクロート氏は、三菱自動車の再生を果たせなかった。

 痛みを招きながら何の成果も出せないリスクは、日本人幹部を外国人の採用に対してより慎重にさせる。外国人はリスクの高い代替薬の行商人のように、伝統療法では効果が出なかった時にだけ迎え入れられる傾向がある。


■日本企業でなく国際企業


 だが、ガイジンCEOが取り組む仕事がリストラからグローバル化へ進化する中で、こうしたリスクも変わってきている。「我々は外国で事業を展開する日本企業ではない。日本に本社を置く国際企業だ」。ネイラー氏は昨年暮れ、フィナンシャル・タイムズ紙の取材でこう語った。

 ウッドフォード氏は、オリンパスの文化を変えることが任務の1つだと考えている。「調和と合意は時と場合によっては適切だが、厳しい精査と異論を述べることは、より良い意思決定につながる」と同氏は言う。「相手と対峙し、『おい』と言えないといけない。なぜなら、経営幹部の大部分が日本国外にいるようになるからだ」

 ウッドフォード氏は、日本語を話せないと言う。だが、ここにも同氏の合理主義が表れている。

 「日本語を学ぶことは考えたが、ハワード・ストリンガーの記事を読んだ。1年経って、ある人が彼に『あなたは赤ん坊のように話す』と言ったそうだ。日本人は、話すのが下手な人は、すべてが下手だと言うだろう」

2011年07月06日 日本経済新聞

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