【イチから分かる】「東北の高速道無料開放」
■被災者ら対象 経済効果は限定的?
北関東から東北にかけての高速道路が、20日から震災被災者と原発事故避難者、中型以上のバス、トラックを対象に無料開放されている。被災者が自宅と避難所を往復したり、被災地へ物資輸送をする際などのコスト負担を大幅に軽減するための対応で、東北道や常磐道など20路線が無料開放の対象だ。(高山豊司)
無料で高速道路を使うためには手順を踏まえる必要がある。乗用車の場合、係員のいる一般レーンを通り、出口料金所で罹災(りさい)証明書と免許書など本人確認ができる書面を提示する。トラック、バスも一般レーンを通れば無料。ただし、東京、大阪など都市部を通ったり、首都高速、阪神高速などを使ったりすると、その分は有料だ。
ETC(自動料金収受システム)を通れないのは、料金計算ソフトの改修作業が間に合わなかったためだ。係員が1台ずつ確認する必要があるため、一部の料金所では渋滞が起こっている。それでも、被災者や東北の地元業者からは、「大きな病院に行きやすくなった」「東京などへ新鮮な魚介類を安く運べる」と歓迎の声が上がっている。
もっとも、東北以外の地域からは不満が強まっている。東北の高速無料開放と同時に、土日、休日上限1千円の割引制度や、37路線50区間で行われていた高速の無料化社会実験のほとんどが19日いっぱいで打ち切られたためだ。土日、休日は料金半額など、ほかの割引は継続されるが、移動距離によっては料金が2、3倍に値上がりするところもある。「観光や地域産業にとって死活問題」との悲鳴が上がっている。
また、トラックなどは、東北で乗るか降りるかすれば、基本的に関西だろうが九州だろうが無料で通行できる。北海道で荷物を積んだトラックがフェリーで東北に渡り、高速経由で九州に運ぶといった、これまで採算が合わなかった物流が活発化する可能性もある。
そうなると、長距離輸送を生命線としている貨物鉄道などは利用が減り、収益が悪化しそうだ。
政府は、8月末までに料金所のシステムを改修し、東北で乗り降りする全車種を対象に無料開放する方針だが、その際には東北などの対象エリア内だけを無料にし、他のエリアの走行分には課金する方針だ。
しかし、システム変更には数百億円必要とみられており、その予算がいつ計上されるのか、めどがたっていない。大畠章宏国土交通相は24日の閣議後会見で、9月以降も対象を被災者とトラックなどに限定した現行制度が続く可能性を示唆した。
経済の専門家からは高速無料化や料金割引の経済波及効果を疑問視する声も上がっている。フェリーや鉄道など別の業種の収益が落ち込むことで効果を打ち消しあい、今回のように地域を限定すれば、他地域への人やモノの移動が縮小するためだ。「被災地復興の公共工事を手厚くしたほうが経済効果は大きい」(エコノミスト)といった見方もあるようだ。
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■完全無料化 徐々にトーンダウン
民主党政権の公約の一つに高速の完全無料化がある。しかし、財政事情の厳しさから徐々にトーンダウン。震災発生前の時点で4月導入が決まっていたのは、無料化ではなく、平日上限2千円、休日上限1千円(普通車)の新料金だ。
新料金は、自民党政権下で確保された休日1千円上限制などのための予算(10年分、3兆円)の残り2兆円を3年間で使い切る仕組み。その後の計画は白紙だった。平成23年度予算で無料化社会実験費用1200億円を計上し、完全無料化をあきらめていない姿勢も見せはしたが、震災の発生で、関連予算はすべて復興向けに移し替えられた。
与野党から東北地方の高速無料化要望が強まると、十分な財源議論ができないまま、結局は東日本高速道路会社に負担を押しつける形で実施に踏み切った。「行き当たりばったり」との指摘が強まりそうだ。
2011年06月29日 産経ニュース
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