理不尽な日本の原発賠償法案(社説)
(2011年6月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
日本政府は絶望的な状態にある福島原子力発電所を所有する東京電力の救済策を可決させるのに苦労している。しかし、もし成功すれば、成果に見合わない多大な犠牲を伴うことになる。救済は、そもそも日本の原子力産業をこれほどの機能不全に陥らせた不作為の道をまた一歩進むことを意味するからだ。
■政府保証で社債保有者の負担を阻止
原子炉のメルトダウン(炉心溶融)の影響を受けた人々に東電が支払う賠償額がいくらになるかは分からない。4兆~5兆円になるという1つの試算は、度を超しているようには思えない。もしこの数字が正しければ、東電は破産し、債権者や原発事故の被害者に対する支払い義務を果たせなくなる恐れがある。
たとえ最終的な賠償額がこれより少なかったとしても、額が不確かなだけで、東電の支払い能力に暗雲を投げかけるには十分だ。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は東電の社債格付けをジャンク級(投機的格付け)に引き下げている。
政府が避けようとしているのは、東電が支払い不能に陥る事態だ。法案では、資金は電力会社が拠出するが、保証は賠償機構を創設して政府が担うことになっている。これにより、政府は社債保有者がヘアカット(債務減免)を通じて賠償費用を負担することが絶対にないようにする責任を負う。
■債務再編で納税者の負担は軽減
賠償責任を東電に負わせる決断を考慮すると、株主が事実上すべての投資資金を失い、金融機関が借り入れの帳消しを要求される一方で、社債保有者を完全に保護することは道義的に問題がある。
東電には5兆円規模の社債発行残高があるほか、4兆円規模の借り入れがある。これらの債務を再編すれば、かなりの補償を賄い、納税者の負担を軽減できる。再編には、発送電の分離を容易にするために東電の送電網売却を盛り込むべきだろう。
■政府の根拠は反証可能
社債保有者を保護しようとする政府の熱意を是とする3つの議論は、いずれも反証可能だ。1つ目は法的な議論で、電力会社が破綻した場合は社債保有者が賠償請求よりも支払いを優先されるというものだ。だが主権を有する政府は法律を変更できるし、今のような異例の状況下では変更すべきである。
2番目は、東電の社債保有者にヘアカットを適用すれば、ほかの電力会社の資金調達コストが上昇しかねないというものだ。だが事故のリスクに対する市場の本当の認識が社債利回りに反映されることは、間違いなく良いことだ。業界に取り込まれた日本の原子力監督機関が示すように、国の規律が働かなかった時、市場の規律まで弱めてしまうのはおかしいだろう。
3番目に、東電の社債保有者の多くは銀行であり、債務再編は金融の安定を脅かすと懸念する向きがある。これはせいぜいヘアカットを小幅にとどめるための議論にすぎない。いずれにせよ金融システムにとって重要な銀行が破綻した場合、直接資本注入した方が安上がりだ。
日本にとっては、歪んだインセンティブを永続させる社債保有者の救済よりも、特別措置法に基づく迅速な再編の方が得策だ。
2011年06月28日 日本経済新聞
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