“香り”で若い世代を引き寄せた防虫剤
年間およそ250億円の衣類用防虫剤市場は、ゆるやかな縮小傾向にあった。防虫剤のメーンユーザーは40-60代で、若い世代の防虫剤使用率は比較的低い。流行のファストファッションは格安ゆえにシーズンが終われば捨ててしまうことが多い。ファッション自体も季節感が薄れ、衣服をたんすや衣装箱に収納することが少なくなった。若者たちは、セーターを出したら穴が開いていたという経験のない世代なのだ。
市場の縮小は、約47%のシェアを誇る防虫剤ナンバーワン企業のエステーにとって深刻な問題だった。マーケティンググループの渋谷裕子さんは、「若い世代に防虫剤の必要性を伝えることは私たちの悲願でした」と語る。同社は何度となくトライし、失敗を繰り返してきた。香る防虫剤「かおりムシューダ」の企画は、そうした背景から生まれた。
ヒントは、ここ数年の“香り”ブーム。衣類の柔軟剤は香りを売りものにし、日用雑貨にもさまざまな香り付きが提案されている。香りブームは過去にもあったが、今回のブームはかつてのように強い香りではなく、癒やしやリラックス効果のある香りが求められているのが特徴だ。
衣類にいい香りをつけたいというニーズは高いと判断した同社は、防虫剤のトップブランド「ムシューダ」の香り版の開発に取りかかった。
苦労したのは、目玉となる“香り”だった。防虫剤という商品の性格上、次の衣替えまでの半年間は香りを維持する必要がある。防虫という機能を損なわず、着た時に邪魔にならない香りを求め、試行錯誤が繰り返された。
発売にあたっては、「防虫剤を使わないと衣服に穴が開く」という防虫剤の効能をうたったメッセージをやめた。虫食い穴を知らない若い世代は共感しないということが、今までの失敗から得た教訓だった。
逆に“香り”を強調し、「着るたびに洗い立ての香り」をメーンコピーとしてパッケージに印刷した。「香りが良くて、防虫までしてくれる」ことをアピールしたのだ。
パッケージも、防虫剤を使ったことのない人のために従来のパターンを破った“らしくない”デザインを採用した。香りにこだわりを持つ若い人を意識し、商品ひとつずつに「香りテスター」をつけ、香りを試して選べる工夫を施した。また、防虫剤売り場だけではなく、消臭芳香剤など香りに関連のある売り場にも商品を置いた。
香りをコンセプトに若者をターゲットにした「かおりムシューダ」は、2010年8月に発売すると、3カ月で年間目標の半分にあたる100万個を出荷する大ヒットとなり、一時は店頭で品薄状態となった。メッセージは、若い世代に届いたのだ。
渋谷さんは「ムシューダというナンバーワンブランドに、新たな価値を提案したことが大きかった」とヒットを振り返った。(村上信夫)
2011年02月16日 ZAKZAK
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