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中国企業、ブランド戦略本格化

(2011年5月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 上海東部の繁華街・金橋にある仏スーパー大手カルフールでは、世界を席巻する清涼飲料水のコカ・コーラやペプシコーラの陳列棚は店舗の片隅に追いやられている。


■国内の飲料ブランドが急成長


 490億ドルの規模を持つ中国清涼飲料水市場においてコカ・コーラは依然として最大シェアを占めるが、店舗内で目立つところに大々的に陳列されるのは、急速に成長する国内ブランドの製品だ。

 杭州娃哈哈(ワハハ)集団のとろりとした飲み口のビタミン入りスムージーや、農夫山泉のエキゾチックなフルーツブレンド、それに王老吉のハーブ・ティーなど、国内大手の製品に加え、類似した製品も多数ある。

 これらのブランドはいずれも海外ではなじみが薄い。ネスレの中国法人であるネスレ中国の会長兼最高経営責任者(CEO)のロラン・ドゥコルヴェ氏は、食品と飲料ほど国民ごとに嗜好(しこう)がはっきりと分かれるものはないと指摘する。「乳飲料が大きなシェアを占め、最も人気のフレーバーはピーナツ風味で2番目がくるみ。他の国で売ろうとしても売れるものではない」と語る。

 かつて米国の食品・飲料企業が長きにわたって巨大な国内市場に満足して国外に目を向けなかったのと同様、現在の中国飲料各社も国内市場に焦点を当てるだけでやっていける余裕がある。


■5年で市場が370億ドル増加


 英調査会社のユーロモニターによると、中国の清涼飲料水市場は、昨年の490億ドルから2015年には860億ドルへと成長が見込まれる。

 さらに中国国民1人当たりの消費量は現在46リットルと世界平均の80リットルの半分強にとどまり、米の340リットルには遠く及ばない。いきおい、国内企業はブランドの確立、新製品の開発、出荷増に向けたマーケティングに力を注ぐことになる。

 米調査会社のニールセンの消費財部門責任者のテッド・ハーレイ氏は「外国企業は、国内企業の新製品開発競争に追いつくのが精いっぱい」と語る。

 乳製品では乳業大手の中国蒙牛乳業、内蒙古伊利実業集団、光明食品の他、穀物からワインまで取り扱う国営食品商社の中糧集団(COFCO)、さらには台湾の統一阪急百貨などがあり「いずれも売り上げベスト5に入るブランドを有する」と言う。

■歯磨き粉の高級ブランドも


 もう少し渋い例もある。欧米と同様に、練り歯磨きも店舗で大きなスペースを占め、豊富な品ぞろえを誇っている。ほんの数元で買える商品から最高18元(2.77ドル)する海外ブランドなど様々だが、陳列棚の中央を占めるのは、派手な包装も大げさな宣伝文句もない雲南白薬(うんなんびゃくやく)の製品で、26元もする。

 ハーレイ氏によると、伝統的な漢方薬企業である雲南は数年前から練り歯磨き市場に参入し、コルゲート・パルモリーブやプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)といった米大手のシェアを奪いつつある。「雲南はこの数年で最もシェアを拡大した。国内ブランドが他の追随を許さぬ高級ブランドになった例だ」と言う。


■絶え間ない新製品開発


 専門家は、国内ブランドの成功には様々な要因があると分析する。まず国内の消費者動向の把握に優れていることが挙げられるが、皮肉なことにこうした動向には、世界共通の食の健康志向、さらには新し物好きの傾向などが含まれる。

 消費者の嗜好に応えるため日常生活用品の各社は絶え間なく新製品の開発を行う。ニールセンによると中国は今年、新製品発売件数が世界で2位になるという。

 ワハハ集団の宗慶後会長は「絶えず新製品の発売を迫られる」ため、商品の平均寿命が、新製品の開発にかかるのと同じ3年しかもたないと嘆く。

 英広告代理店大手、バートル・ボーグル・ヘガティー(BBH)の中国責任者アルト・ハンパルツーミアン氏は、中国の国内企業と外国企業の新製品開発競争はリスクを伴うと警告。「消費者の選択肢を増やしても利益が増えるわけではない。むしろ、共倒れの危険性がある」と指摘する。

 新製品開発が必ずしも食の喜びをもたらしたり、売り上げの継続につながったりするわけでもない。ユーロモニターは、ワハハ集団のビーフ風味の炭酸入り飲料「ピーアル茶」を例に挙げる。最初は物珍しさからこぞって買い求めても、買い続ける消費者はほとんどいなかった。

 そうした失敗例にもかかわらず新製品開発の流れが滞ることはなさそうだ。国内企業は資金が潤沢だ。株式市場に上場しベンチャーキャピタル(VC)からの資金も利用できるなど、新製品開発を支える資力がある。

 国内のブランド競争が激しさを増す一方、多くの中国企業が海外進出をもくろむなかでブランド攻防の戦場は海外にも広がりそうだ。光明食品は海外企業買収を模索しており、ワハハ集団は売上高を今後3~5年で現在の550億元から1000億元に増やす目標を掲げている。

2011年05月09日 日本経済新聞

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