効率化にもリスク
ゆっくり飲もうか、サッと飲んでしまおうか。丁寧にいれられたコーヒーを最大限まで楽しむために悩むのは、店やコーヒーに対する礼儀だ。そう勝手に決めつけている。
東京・神田の「珈琲専門店 エース」に立ち寄るのが日課となっている。開店とほぼ同時に店に入り、その日の気分で銘柄を選ぶ。湯気のたつカップを口に運び、朝の最初の1杯を満喫しながら、店にそろえてある全国紙に目を通す。香ばしさが体にしみるころ、あれこれ紙面づくりのヒントが浮かぶ。そんなときにふと、このコーヒータイムの意味について、効率化の観点から考えてみた。
企業にとって効率化は、寝る前に歯を磨くのと同じぐらい当たり前になった。経費削減、不採算事業の廃止、外注化、選択と集中。ほかにもある。似たような取り組みを異なる言葉で表現しては、経営者や社員が自己暗示をかけ、懸命に効率化に励む。
その結果、なのかどうかは検証が必要だが、企業経営のゆとりのなさが凶と出ることが増えている気がする。事業を取り巻く環境変化が、そのまま収益への大打撃となっているためだ。
今年は、そんな環境変化がこれでもか、と続いている。円高、地震、津波、電力不足、風評被害、サプライチェーンの寸断…。どれに対しても多くの企業経営者は迷惑顔をみせる。
しかし、備えがあればどうだったろう。社内で部品を作る部署を抱えたままにしておけば、あるいは技術者を子会社に転籍させないでおけば、変化から受ける影響を小さくできたのではないか。売れ筋が変わっても、稼ぎ頭以外の事業を持っていれば、軸足の置き場所を比較的早く移せるかもしれない。
十数年前、「リストラ」なる言葉がはやり出したときに、コラムに「どこまでやせれば気が済むのかを、企業自身が気付かなければ、幸せを目指しながら最後は不幸になる。そのダイエットが死ぬまで続きかねないから」と書いた。必要なダイエットはある。でも、削るべきは無駄であって、備えやゆとりまで削ってしまっては身を滅ぼす。少しずつそのほころびが見えてきたのではないか。
コーヒーを冷めないうちに飲み干し、いいアイデアをひねり出す。「エース」でのコーヒータイムは私にとってなくてはならない時間だ。この「ゆとり」をリストラの対象とすることはできそうもない。(副編集長 村山繁)
2011年11月21日 産経ニュース
最適な税理士が見つかる!
T-SHIEN税理士マッチング
依頼したい税理士業務と希望金額を入力し、匿名で全国の税理士事務所から見積を集めることができるシステムです。送られてきた見積の中から、最適な税理士を選ぶことができます。