【イチから分かる】産業空洞化 カギは国内拠点の維持
企業がものづくりの拠点を海外に移す動きが加速する中で、日本経済に産業空洞化の懸念が高まっている。「海外流出」の背景にあるのが、足元の“超円高”や東日本大震災以降の電力不安だ。空洞化の現状とその対策とは。(田端素央)
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「空洞化と言うが、日本だけでは今の収入は維持できない」
ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正社長が日本企業の置かれた現状を代弁する。さまざまな商品で国内市場はすでに飽和状態。しかも日本は「人口減少時代」に入った。同じく先進国である米国や欧州も市場の大きな成長は見込めない。
そこで、企業は中国や東南アジアといった新興国に活路を見いだしている。自動車や電機などの製造業では、「新興国シフト」抜きに世界的な競争を勝ち抜くことは不可能。実際、経済産業省の調査ではアジアに進出した日本企業は10年前から5割近く増えた。
さらに日本企業を海外へ駆り立てているのが「6重苦」と呼ばれる不利な競争条件だ。(1)歴史的な円高(2)電力問題(3)高い法人税率(4)製造業派遣の原則禁止などの労働規制(5)自由貿易協定への対応の遅れ(6)温暖化ガスの25%削減-のことをいう。「日本でのものづくりは理論上成り立たない」(トヨタ自動車の豊田章男社長)との悲鳴も上がる。
最近では、半導体大手のエルピーダメモリがパソコンなどの記憶媒体に使う「DRAM」の製造設備の4割を台湾に移設することを決めた。
自動車でも、ダイハツ工業が新型軽自動車「ミライース」用の部品を中国や韓国のメーカーから調達した。超円高の中で低価格を維持するため、新興国の部品を使ってコスト削減を図ったわけだが、国内の部品メーカーが仕事を失うことになりかねない。
日本の国内総生産(GDP)に占める自動車産業の割合は2~3%。ガラスやタイヤ、電子部品などの関連産業も含めると、実はGDPの1割は自動車産業が占めるといわれる。自動車業界では今年、海外への設備投資が国内投資の2倍に増える見通しだが、仮に自動車の国内生産が半減すれば、GDPは3%ダウンし、100万人の雇用が失われるとの試算(みずほコーポレート銀行)もある。
さらに深刻なのは、炭素繊維や有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)など最先端の分野で韓国などに技術移転し、現地生産や研究開発をする動きが相次いでいることだ。
6重苦が一気に解消する可能性はなく、さらに言えば、ある程度の空洞化は先進国の宿命だ。そうした中で日本経済を持続させるためには、先端製品工場の国内立地を促進し、国内の研究開発拠点の維持に努めなければならない。円高を味方につけた海外企業に対するM&A(合併・買収)の加速も重要だ。
中長期的には企業が海外で稼いた外貨を国内に還流させて税収減を補填(ほてん)しつつ、財政出動によって雇用を生み出す仕組みをつくることも必要だ。そうした「空洞化対策」は一朝一夕にはできない。政府には再び投資を国内に向かわせるような、政策のパッケージが求められている。
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■背景にアジアからの誘致熱
日本企業が海外に流出する背景にはアジア各国の誘致合戦がある。特に政府を中心とした韓国の優遇策はすさまじい。土地の使用料の最大50年無料や、法人税5年間免除に加え、地方税を15年間免除する地域もある。ウォン安もあり、電気料金も日本の半分以下だ。
韓国政府は日本の先端技術、特に部品・素材産業を誘致し、日本より先に自動車、電機メーカーに優れた技術を導入したいと考えている。FTA(自由貿易協定)の網も世界に張りめぐらされ、輸出拠点としても有利になってきた。
最近はインドネシアや台湾、中国なども同様の方法で日本企業に誘致攻勢をかけ、「(太陽光発電や電気自動車など)日本の環境関連産業を対象にした特区を設けたい」(台湾政府幹部)との“ラブコール”は尽きない。
日本でなくても高品質の製品は作れるようになった。企業が自らの競争力を高めるために、コスト安のアジアに逃避する流れは止まらない。
2011年10月12日 産経ニュース
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