気仙英郎 復興支える若者の起業
東日本大震災からの復旧・復興をめぐる政府や国会の対応は議論ばかりが続き、実行がなかなか伴わない。そんな政治を尻目に、市民から少額の投資を募る「市民ファンド」の広がりや若者らの起業が、民間の自律的復興を支えている。
宮城県気仙沼市の水産加工会社、斉吉商店の事例もその一つだ。津波で工場、直営店がすべて流された。途方に暮れる中、インターネットを通じ、全国から1口1万円の出資を募る「被災地応援ファンド」を知った。苦境の中の一筋の光だった。さっそく参加したところ、計1千万円を数カ月で集め、仮店舗での営業再開にこぎ着けた。30人の従業員の雇用も守られた。
「ブランド力をつけて気仙沼の良さを発信しなくては」
同社の斉藤和枝専務の言葉は前向きで力強い。市民ファンドを通じて広がった全国の出資者とのつながりは、新たな得意客が増えたのと同等の意味がある。斉藤専務は「これまで三陸の魚介類をそのまま売るだけだったが、自分たちが豊かな宝ものを持っていることに改めて気付かされた」と再建への手応えを感じている。
宮城県石巻市雄勝(おがつ)町は約4300人の住民が震災後、1000人以下に減った。町を再興するため、地元の若者らが起業した会社が「OHガッツ」だ。カキなどの養殖業や特産の「雄勝硯(すずり)」の再生をめざす。伊藤浩光代表は「3年後の雄勝ブランドの確立」を目標に掲げる。
津波で町が壊滅した岩手県陸前高田市で菓子小売業を営んでいた橋詰真司氏はコンテナ商店街を立ち上げるため、「なつかしい未来創造株式会社」を地元の商店主らと設立した。商店街を復活させ雇用と地元のコミュニティー維持をめざす狙いだ。農業や医療などの分野でも若手起業家が続々誕生している。
そうした起業家を支援しているNPO法人の一つに「ETIC.」がある。ここは新たに、被災地の企業経営者や復興支援団体リーダーの「右腕」となる20代から30代の大学生や社会人を半年から1年間派遣する事業も始めた。彼らの給料はETIC.が集めた寄付金でまかなうが、現地で新規事業を起こし収益を上げることも目的の一つだ。すでに延べ40人が被災地で働いている。今後3年で計200人を派遣する計画だ。
国の第3次補正予算の成立を待ち、補助金が確定してから、県や町が動き出すのでは遅すぎる。被災3県(岩手、宮城、福島)の失業者は7月末で約30万人、失業率は10%超と予想されている。企業をまず再建しなければ、雇用が失われ、労働者が域外に流出する。若者らが起業を急ぐのは、雇用を創出しないと高齢化と過疎が進む危機感を共有しているからだ。
それに比べて、政府が省庁横断と銘打って雇用調整助成金の拡充などを柱に震災直後から始めた「しごとプロジェクト」はどれだけ具体的な新規雇用を生み出しているのだろうか。
行政に望むのは地域の核となる民間の自助努力の動きを柔軟に支援していく発想への転換である。
2011年10月03日 産経ニュース
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