[FT]密かに富裕層からカネを搾り取る日本政府
(2011年9月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
最高税率を巡る議論が米国と英国で白熱する中、日本の当局は異なるアプローチを採用しているようだ。密(ひそ)かに富裕層からカネを搾り取るのだ。
■下がり続けた富裕層の負担に転機
日本の高額所得者は既に、所得税の最高限界税率が50%に上っている。英国の保守党議員の多くが断固反対する水準だ。だが、日本の政府関係者は3月11日の津波で壊滅的な被害を受けた被災地の復興をまかなうために、富裕層に臨時増税を課そうとしている。
この計画は今後も政治的な障害にぶつかるとはいえ、日本の政策当局者たちは少なくとも、最富裕層への増税案を巡ってオバマ米大統領に浴びせられている「階級闘争」の批判を免れている。
日本の復興税に潜む再分配の要素は、ただし書きの中にしっかり埋め込まれている。政府は所得税について本来の税率に一律5.5%を上乗せすることを提案していたが、低所得者層の標準的な納税額を減らす税控除は、本当に負担するのは富裕層だということを意味している。
政府税制調査会の試算によれば、夫婦と子供2人の世帯で働き手が1人、年収が500万円と中央値に近い水準の場合、5.5%の税率上乗せによる負担増は年間4300円にしかならない。だが、同じような家族構成で年収が1000万円だと負担増が3万6700円になり、年収1億円の世帯は184万円を払わなければならないという。
臨時増税は、日本の富裕層の税率がここ数十年間低下してきた流れにとって、小さいながらも潜在的に重要な転換点となるわけだ。
■「中流階級の圧迫」が背景に
このような転換は意外ではないはずだ。日本人はかつて「中流階級国家」を築いたことを誇った。だが、平均賃金の低下と臨時・契約雇用へのシフトは、「終身雇用」のサラリーマンという戦後の夢をおおむね打ち砕いてしまった。
所得格差に対する懸念は、2009年に中道左派の民主党が政権を取る一因となった。主だった政治論争は、金持ちを甘やかすことで「富の創造者」を増やす方法ではなく、いかにして「圧迫される中流階級」の苦労を軽減するかに終始している。
日本の最富裕層は相応の税金を払っていないと言う人もいる。こうした見方は、2009年に当時首相だった鳩山由紀夫氏が、遺産相続した母親からもらった10億円以上のお金について必要な税金を払っていなかったことが明らかになって一気に広まった。
鳩山氏は未払いだった数億円の税金を納付したが、寛大な当局は、課税時効が成立していたために納付金の一部を還付した。
■富裕層の増税避けられず
裕福な納税者は、臨時増税についてあまり騒ぎ過ぎない方が賢明だろう。何しろ、国内総生産(GDP)の17%相当しか徴収しない税制(先進国では最低水準に数えられる)にとっては、復興増税など微調整にすぎないのだ。
3月11日の大震災に直面して冷静な態度を示し、世界中の称賛を集めた東北の被災地住民の苦しみを和らげるための増税に反対することは、悪趣味に見える。
富裕層の増税を支持する最善の説の1つは、それにより、すべての所得階層が運命をともにしていることへの国民の信念が深まる可能性があることだ。幸いなことに日本はまだ、米国の一部都市を台無しにしているような犯罪が多発する立ち入り禁止地域や、今夏英国各地に広がった暴動などがない国だ。
野田佳彦首相は今月、中流階級からこぼれ落ちる人々の「あきらめはやがて失望に、そして怒りに変わり、日本社会の安定が根底から崩れかねない」と述べ、社会の安寧が保証されているわけではないことを示唆した。
最高税率を払っている納税者の多くはきっと、弱含みの景気回復への懸念から臨時増税が少なくとも先送りされることを期待しているだろう。だが、日本の悲惨な財政動向は、全般的な増税がほぼ避けられないことを意味している。今回の増税計画は、富裕層に税金をより多く払わせようとする最後の試みにはならないだろう。
2011年09月28日 日本経済新聞
最適な税理士が見つかる!
T-SHIEN税理士マッチング
依頼したい税理士業務と希望金額を入力し、匿名で全国の税理士事務所から見積を集めることができるシステムです。送られてきた見積の中から、最適な税理士を選ぶことができます。